私が花屋で働いていて得だな~と思うことのひとつに、小説なんかで花の名前が出てきても、すぐにどんな花か分かる。ということがあります。
単純ですが、本を読んでいてその物が分かるかわからないでは面白さも違ってきますし、今はスマホでなんでも調べられるけど、読み進めながらほぁ~っとその花が頭に浮かぶとより本の世界に入っていけて、ふふふっとお得な気持ちになるのです。
もちろんわからなくて勝手にイメージして、あれ、白いお花だと思ってたけど赤だったのねと後日わかったときも、それはそれで楽しいですが。
「木暮荘物語」 三浦しをん
木暮荘物語の主人公 繭は「フラワーショップさえき」で働く26歳(推定)。
佐伯さん夫が奥のスペースで喫茶店をやり、奥さんが花屋を切り盛りする、バラとコーヒーの香りがするこのお店がとても気に入っている繭は、木暮荘で恋人と半同棲中。悩みなどない毎日だったが、三年前に音信不通になった元恋人が突然帰ってきてしまい、物語は動きます。
この「フラワーショップさえき」がなんだかとてもいいのです。
瑞々しいお花たち、ちょっと狭そうな作業台と明る過ぎない照明……は完全に想像ですが、店主の佐伯さんのセンスもとても…
オジアーナ、デザート、アンティークレース。少しずつ色合いの異なる薄いベージュのバラが、ため息に似てやわらかく重なりあう。合間に差す葉ものも、瑞々しい緑は避け、コルダータを主に使った。
引用元:「木暮荘物語」
なんて、素敵。 佐伯さんの作るアレンジメント、お洒落……
一章の題名「シンプリーヘブン」はバラの品種で、物語に度々登場します。
白いバラで、花芯に近くなるにつれ花びらは上品な杏色を濃くする。香りはわずかだが、天国の名にふさわしい、うつくしい花
引用元:「木暮荘物語」
作中で、毎週火曜日にシンプリーヘブンを五本買っていく女性が登場しますが、自宅用ということで繭は簡単にラッピングします。
この、簡単にラッピングというのがまた想像力をくすぐるのですが、簡単とはいえバラ五本なのでそんなに安くはないし、でも自宅用だからすぐ飾れるように簡易に…
くすんだ水色のワックスペーパーで包んで麻の紐を結んでみました。
こんな感じなのかなという完全に想像ですが、黄色がよく映えています。
(このバラはオールフォーロマンという品種のもの)
他にも繭が作る小さなブーケなど、お花がたくさん出てくる一章で、ぐっと惹き込まれました。
二章は木暮荘の大家さんに語り手が代わり、三章は木暮荘に惹かれるトリマーの女性……と、それぞれのドラマが、優しく切なくゆっくりと進みます。
木暮荘は古くていまにも崩れそうな木造二階建てのアパートで、壁も薄くて住人の生活音が丸聞こえ。広々とした庭があり、雑草に混じってチューリップや水仙や野ばらが季節に応じて花を咲かせます。
そんなどこか温かくのんびりした木暮荘に関わる人たちの、平凡だけど確かな人生の変化。
瑞々しい花の香りを感じながら、楽しめました。
こんな、花屋のちょっとした優越感をくすぐる本に、また偶然に出会いたいなと思います。
Amazon.co.jpで詳細を見る
繭が作っていたアンスリュームだけの小さなブーケを想像で作ってみました。白に先だけがうすい赤で、ピンク色にも見えるマキシマ。南国のイメージが強めなアンスリュームだけど、涼しげで柔らかい印象になりました。
夏休みももう終わり。。
あっという間に我が家のひとり息子の夏休みもあとわずか……
わたしが子どもの頃よりも夏休みが少なくてちょっとかわいそう。
夏休みの宿題は、全部終わったのでしょうか。
怖いので敢えて聞かないことにして。
今年もお盆のお花やらで忙しいことを理由に、旅行にも夏らしいことも、なんにもしてあげられなかったけど、毎日部活で真っ黒に焼けていく肌を見て、いちばん夏を感じたよ。
夏休みお疲れさま。
ただ、夏休みくらいは、本を読もうよ。
最後まで読んで頂きありがとうございました。